2001年9月

~~~ミルク色のコチカ~~~


奮闘記 -1-




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* 9月2日(日) <はじめて会った日> 

渡良瀬遊水地。夕暮れ。背の高い葦が生える小道。車から見える場所に坐っていた。
抱き上げてみると後ろ脚がだらりとして動かない。
手を出すと首筋を摺り寄せてきて、人に慣れている。
水溜りが目の前にあり、水溜りの周りはドロ状に濡れていたけれど、この子は汚れていない。
どうやら捨てられたばかりの様子。
水溜りをじっと見ている。
お水を上げたら元気に飲んだ。
うちは借家なので猫は飼ってはいけない約束である。
しかしひょっとして誰も拾っていかなかったら、と思うとぞっとする。
水溜りに入って泥んこになったらきっともう終わりだろう。
考えていたら人の顔を見てにゃっと言ったので、連れて帰った。
後で誰かに相談しよう。

帰宅。お水も飲み、子猫用キャット・フードも少し食べた。
それにしてもいったい生後何ヶ月くらいなのだろう。
背骨が折れて治った様子。毛並みにギプスをしていたらしい跡がある(これはどうやら違ったようです)。
遊び盛りのはずなのに、自由に動き回れずしんどいのか、すぐにトレーの中に入ってしまう。
動けないけれど、好奇心が旺盛そうで、お利口さんな顔つき。毛繕いもする。
おしっこをしないのが気にかかる。
内臓は確かなのだろうか。ちゃんと生きられるのだろうか。明日病院に連れていこう。

うちの子じゃないので名前がつけられない。とりあえずコチカ(チェコ語で猫 雌猫)と呼ぶことにした。

  
たちまち気に入ったトレー              ビールを注ぐ音に ん?

  
Z z z z..                        かならず手枕


ときどき人の指を嗅いでみて、うつろな目をする。いつもの人じゃない、と思うのだろう。


 *  *  *  * 

* 9月3日(月) <うちに来て2日目>

お医者さんに行ってきた。
動物病院なんて初めてだし、そもそも病院嫌いなので(私が)緊張してしまった。
初老のとっても良い先生。
おなかを押さえておしっこを絞ってくれた。
そんなやりかたあるなんて思いもよらなかった。
ついでにウンチも出してくれた。

背骨の骨折以外、なんともないとのこと。
よかった!

車椅子のことを言ってみたら、市販されているのだそうだ。
仰天の数十万!
うちの夫が作るとか言っているので、それでいいことにしよ。
車椅子のいいのができたら、里子に出さないといけない。
当座のキャット・フード代と生涯の車椅子を作るくらいのことはするので、
誰かもらってくれる人はいないかしらん。

それにしても、眠ってばかりいる。
恐らく、生まれてからの今まで人生のほとんどを辛い思いしてきているのだ。
眠って忘れよう、というところだろうか。
性格もそれなりに影響を受けているに違いない。
まず本来の自分がどんなであったか思い出さなくちゃ。

目覚めるとまず一声、にゃぁ!
振り返るとじっとこちらの目を見て、またにゃぁ!という。
どうしていいかわからずだまっていると、生えかけの小さなぎざぎざの歯見せて、もっという。
さすが猫。言いたいことだけはちゃんという。気は確かそう。

前の飼い主はどんなことをしてあげていたのだろう。
とりあえず、頬から顎のラインをそうっと撫ぜてあげるとゴロゴロ言い出すので、それでいいのかな。
でも目を見合っていると、いつもの人と違う・・とやはり違和感を感じているように思える。
なんか不憫。

* * *

歩く練習をはじめた。
まず、抱っこの時間を延ばして、心地よさを味わわせる。
そして、ここに来れば気持ちいいよ〜と呼び寄せる。
うまく思うツボにはまってくれた。
80cmほどの距離を自分のトレーに行ったり、私のところに来たり。
寝てばかりいるものだから、必要な筋肉の発育が遅れ勝ちなのだろう。
2回ほども歩かせると息が少々荒くなる。

* * *

寝る前に(人間が)おしっこをさせた。
自分じゃできないのだ。
獣医さんがやったように胃かなと思うような場所を押すと出た出た。
もう出ないかなという頃になったら、にゃ〜といった。


 *  *  *  * 


* 9月4日(火)



       ごはんはやく〜
うちに来て3日目。
家にも私たちにも慣れてきたのだろう。
緊張がほどけて顔つきが子猫らしくなってきた。
今日はかなりの進歩があったので嬉しい。
それにしても、
よほど事情のわかった人でないともらってはもらえないだろう。
改めてそう思い、気が重くなった。


夜中ににゃっにゃっと言いながらふとんに這いあがってきた。
トレーの壁を乗り越えるのはもうなんともないらしい。

寒かったのか、淋しくなったのか。
枕の近くにいるからいいけど、もっと奥に来たら困る。
誤って乗っかっちゃったらどうするのだ!

* * *

起きぬけに排便。やはり自分じゃできない。
ティッシュで肛門の周囲を押すと、どの辺まで便があるのかわかる。
へ〜こういうものなのか。
健康なウンチを1つ半ほど。
自分でなめとることをしない。
そのままじゃ汚いので、お湯でお尻を洗う。夫がやる。
ご飯を食べてるのもなんだか見てる。
会社に遅刻する〜

* * *

ごはんを食べたら歩く練習。
こっちおいで!と言ってもなかなか歩きださないけれど、
前脚を歩き出せるよう、ちょこっと動かしてやると歩き出す。
行きたいと思っても下半身が重くて億劫らしいが、
後脚を伸ばしていれば歩きやすい。
気分が乗ってくれば、ひざ(?)を使って割合歩くのだ。
疲れやすいので無理しないでトレーへ、というより、自分で入ってしまった。

自分の行きたいところへ行くということを
早く自覚させないと、歩かない猫になってしまいそうで不安。
早く車椅子をあつらえなければ。

やけに臭うと思って確かめると、トレーの中でおしっこをしてしまっている。
連れてきたすぐは18時間もおしっこをしなかった。
その後はしばらく自分ではしなかった。眠っていてもしなかった。
場所が変わったせいだったのだろうが、貯めておけるということは、
しつけが可能なのだろうか。
おしっこだけでもしつけられたら。。

* * *

遅い午後、目覚めたらまたウンチ。朝の残りか。もちろん自分じゃできない。
食事をしたらまた再び練習。
かなり慣れてきた。億劫でもなくなってきたというか。
電気のコードをちょろちょろと動かしてみる。
かなり好奇心をくすぐられてる様子だが、
猫らしい反応をしようとしても身体が動かない。気の毒なのでやめる。

1m歩行を何本か。
よくできたので、しばらく抱っこしたまま私はお仕事。

* * *

人が教えてくれた猫遊びを試してみる。
ティッシュを丸めてころがすのだ。
身体の離れたところへ飛ばしても取りに行けず、絶望感を募らせるといけないと思い、
前脚のそばに投げてやったら、ムム!と、手を出してきた。
しばらくやっていたら、おなかがすいてきたらしい。
ティッシュ玉には見向きもしないでにゃあにゃあ鳴く。
さっきのキャット・フードの残りをあげたら足りなくなってにゃあ!
水に浸さない硬いままを食べさせたら食べた。
どんどん元気になってくる!

 *  *  *  * 

* 9月5日(水)



  これが一番!
今日はなんだか不調。
私が外にいたせいか。
でも体重が740gになった。



ようやく大家さんに話した。
話はわかってもらえけれど、次の人が見つからなかったとき、どうするか考えなくっちゃね、
と脅迫された。うそ。そんな人ではないもちろん。でもそういわれた。契約は契約なのだ。

* * *

おむつをした。
女性用のナプキン使用。驚くなかれ。いろいろな用途に使われているこれ、
お医者さんに進められて、男性でも痔の手当てに使ってる人、結構多いのだそうだ。
昨日の夜中もふとんに入ってきたけど、吸水力がバツグンなので安心。

おとといよりももっと進出してきて、ふとんの中ほどへ。
踏み潰しそうで恐くて、よく眠れなかった。

ごはん〜!と起こされた。容赦なく言う。
いつもより1時間も早く起床。
よく食べる。体重が740gに増えた。

5時間出かけていたけれど、大丈夫だった。
置いておいたキャット・フードも食べていた。
でもちょっと元気がない。

19日からお彼岸のため帰省する。
バスで8時間の旅なので連れていかれない。
もはや問題である。
帰りの遅い夫にはまだ頼めないだろう。
気が進まないけれど、ペット・ホテルに頼むべきだろうか。

* * *

本棚と私の顔を交互に見上げてみゃ〜みゃ〜鳴く。
なんだろうと思い抱き上げてみたら、本棚をじっと見ている。
そういえば昨日だかおとといだか、押し入れを開けたまま用事をしていて、
押し入れの匂いがふわっとしたと思ったら、いきなりうにゃ〜!といって
不自由な脚のまま飛びかかっていった。

押し入れの中には、押入れ用引き出しに布団が積み重ねてある。
前の家と同じ匂いのせいか布団の様子が似ているせいか。
ずっと押し入れの中で寝ていたのだろうか。

そして今日は本棚を見ている。
押し入れの様子と見た目が似ているからか、前の家にも本棚があったのか。
私の伺い知れない記憶を持っていて、小さな頭の中で測りあってるに違いない。

夕方くらいからおしっこをしてない。いいのだろうか。

おむつ用ベルトを縫ってみたが、使えない代物になってしまった。
目下のところ医療用テープを毛にくっつかないよう工夫して使うのが一番かも。

* * *

ロシアンブルーのHPを作ってらっしゃる猫姫さんのところの掲示板に
コチカのことを投稿させていただいたら、
暖かい励ましの言葉とともにいろいろ教えていただいた。 ⇒ Blue Angel
やはり下半身マヒの犬を飼ってらっしゃるミュウさんからも励ましをいただいた。
もう感謝感激である。

うちの大家さんの話によると、筋向いの家にも交通事故で頭をやられ
片目が見えず、流動食しか食べられない猫を飼っているということだった。
障害を持った動物を飼っている人は結構いるのだ。

 *  *  *  * 


* 9月6日(木)



  得意の手枕。えらそう。
うちに来て5日目。

自主的に歩くようになって
朝から部屋の中をうろうろっとしてみる。

病院に行ってレントゲンを撮ったときに
看護婦さんにマッサージをしてもらったら
驚いたことに足先で立てるようになっている。 


人間が寝るので、寝室に連れていったら、
では、とばかり自分もふとんに入ってくる。
わざわざ人の顔のまん前に来て寝そべる。

うとうとしつつもなんとなく目を開くと、
焦点が合わないくらいの至近距離で、真っ黒な目をぱっちり開いてじっと見ている。
何考えてるんだろう。

夜中に夫が、ウンチしてるから気をつけてね、とぼっそり言って寝返りを打った。
う〜んムニャムニャ・・へ!?っと目を覚ますと、
おむつがずれていて、しかも大量にウンチをしたものだからふとんを汚している。
すわっ一大事! さっそく階下に連れていって処置をした。

最大の課題はおむつである。う〜ん。

* * *

結局おしっこをせず、おなかを押しても痛がるので、
病院に連れていった。
はやり尿道がつまっていて、細い何か(なんていうものだろう?)で
通していただいた。痛がって気の毒だった。

先生によると生後50日くらいだろう、とのこと。
2ヶ月弱。まだ親から離してはいけないのだ。
日本ではいいことになっているが、外国では
4ヶ月というそうだ。そうだろうと思う。

最初は私の態度に半信半疑でお金のかかることを一切おっしゃらなかった先生も、
骨折の具合がどんなかレントゲンで見てみましょう、と預かってくださった(そういうシステムなのだ)。
車椅子のカタログもお借りした。

* * *

家に戻ってみると、コチカのベッドが空っぽ。
信じられないくらい寂しくなった。
なんだろう。こんなつもりじゃなかったのに。。

* * *

レントゲンによると、腰もクラッシュしているけれど、
あばら以下の背骨が先天的に1つ足りないのだそうだ。
本当は7つないといけない。

しかし、ステロイド剤などの投与で、ある程度動きが楽に
はなるだろう、とのこと。

看護婦さんにマッサージしてもらったら、なんと足先で立て
るようになっている。歩くのも少しは楽になったらしく、当た
り前に歩こうとするし、猫らしく遊ぶようにもなった。びっくり!

先生はとても親切で、できることはなんでも協力してあ
げると言って下さった。私が不在の間も一泊2000円で預かっ
て下さるそうだ。もうなめてあげたいほど嬉しい(誰を?)。

ステロイド剤と高カロリー・高たんぱくのキャット・フード
で様子を見る。後は腰湯をしたり、マッサージをすること。

コチカの断面図:肩あたりから大たい骨まで



 *  *  *  * 



* 9月7日(金)

うちに来て6日目。

脚を指圧すると、低く小さく
にぇっとも、へっとも、ぐぇっともつかない声を出す。
でもうっとりと目は閉じたまま。
そして丸く身体を膨らませ、ふーっとため息をつく。
「いたぎもちいい」というところかしらん。 
  



先生に教えていただいた方法でおむつをしたら大成功だった。
夜中にたくさんウンチをしたがもれてもいない。
問題は腰への巻き付け方だった。

女性用ナプキンの3分の2あたりに×印の穴を開け、尻尾を通し、
四隅にも穴を開けて、左は左、右は右、腰のあたりでゴムなどで結わえる。


大人の猫なら人間の赤ちゃん用の一番小さなものに尻尾用の穴を開けれ
ばいいのだ。市販されている猫のおむつと人間の赤ちゃんの違いは尻尾の
穴があるかないかだけなのだから。ふむふむ。

* * *

今日もおしっこを出してもらいに病院へ。
おなかを押すと出た。今日は尿道がつまっていたわけではない。
最初の頃は私もやってやれたのだが、コチカがちょっとでも鳴くと
痛いのではないかと心配で途中であきらめてしまう。
恐れずに押してやれば良いのだ。

それにしてもなぜおしっこをしないのだろう。うちに来て3日目には
していたのに。おむつが気にいらないのでひそかに抗議しているの
だろうか。おむつをするのは人間の都合だものね。

* * *

キャット・フードを高カロリー・高たんぱくのものに変えたらあまり
食べなくなった。いつものをあげたくなるが、
おなかをすかせれば食べますよ。負けてはいけません、と先生。
そうなのだろうな。

コチカの状態に一喜一憂してしまうが、いろいろなときがあるのだろう。
まだ新しい場所に変わって数日なのだ。気楽にかまえて見ていよう。

それにしても次なるお家にもらわれていくとしたら、またコチカにとっては最初から
のやりなおしになる。そう思うと憂鬱。



 *  *  *  * 



* 9月8日(土)


ティッシュと格闘(ちょっとピンボケですが)
うちに来て7日目。

1日に2度ほどおもいきり遊ぶようになった。
大好きなのは、ティッシュとテーブルの下に
結わえられたひも。
腕力は結構あって懸垂みたいなこともする。


今日は長い時間いっしょに眠ったせいか、気分が落ち着いている様子。
毛もふさふさしてきて、中の毛が密集している日本ザルみたいになってきた。
白いので、坐っていると雪だるまみたい。

* * *

拾った当初は20cmくらい近くのものは良く見えないようだったが
この頃は普通に見えているようだ。
やはりストレス性のものだったのか。

だいたいの生活パターンとしてはこんなになってきた。

1.目覚めてのびをする
2.おなかがすいたコールをする
3.お食事
4.ひと通り毛繕い
5.よしよしして〜!と鳴く あるいは遊ぶ
6.またベッドに入って寝る

* * *

「排泄」

今日は一日おむつなしで過ごさせた。
どうやら自分のベッドでしか排泄をしないらしい。
見上げたもの!

しかし寝ている間にするようなので、それをどうにかせねば。
猫用トイレの砂を買ってきたので、なんとかそこでさせたい。
ちゃんと歩けるようになることが先決。

* * *

「のみ」

のみとり用のくしを買ってきて、5匹くらいとった。
そんなにいるとは知らなかった。

いつもタオルの敷物を何枚か重ねた上に寝かせていて、
上のタオルは頻繁に替えていたのだが、あまり替えない
下のタオルを見てみると、なんとくねくねした虫が一杯いて、
ぞっとなった。
なんですかこれは? のみの幼虫?

知らなかったとはいえ、こんなに培養していたとは!!!
仰天して頭から湯気を吹いて洗濯した。
一緒に寝るのも控えた方が良いものだろうか。
こんなに小さいのに、長い夜を一人にしておくのも可哀想だけど。。

* * *

「キャット・フード」

お医者さんにもらったキャット・フードはやはりおいしくないらしいが、
先生に言われたとおり、どんなに鳴いても上げないで、撫ぜたりスカ
したりしていたら、結構だまされ、気がはやるのかものすごい勢いで
遊びだし、私がいつもざらざらっとお皿にあけて持ってくる場所までの
間を立って走って往復し、良い運動になった。
そのうち寝てしまい、目覚めてから上げたらパクついていた。そういうことか。

* * *

「歩行」

なんというか、足の甲の部分でしか立てない。
ぺたっと足の裏がつかない状態なのだ。

そして両脚と腰との連動がうまくいかず、すぐ脚が交差してしまい、
そのままずるずるひきずることなる。しかし、腰を持ち上げ、元に戻す
ことを徐々に覚え、やろうとしているので、そのうちなんとかなるので
はないか、という気がする。コチカも一生懸命学習しているのだ。

今日は、そのためのリハビリ用の車椅子の部品を東急ハンズに見に
入った。まあ、試行錯誤を繰返し、3つくらいも作れば役に立つものが
できるだろう。

* * *

「毛繕い」

せっせとする方だが、身体が充分曲がらないので、
お尻のふき取りはちょっと不自由。
でも頃合を見て手を引っ張ってあげると、
なんとかきれいにする。

お尻の充分でないところを、仰向かせて拭こうとすると、
片足をひょいっと持ち上げて、協力する・・・ように思う。
どういうつもりか、そうするのだ。

脚が不自由なのに、耳の後ろを後足で掻こうとするのには驚く。
やったことないくせに、どうして思いつくのだろう。
遺伝子の中にインプットされているのだろうか。



 *  *  *  * 





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